こんにちは。歯科医師のイブスキです。
今日は、「マウスピースの必要性」について解説していこうと思います。
結論から言うと、ほとんどの方にとって、「マウスピースはあったほうがいい」です。
理由は後述しますが、最初に前提としてマウスピースにはどのような種類があって、それぞれどのような効果があるかを解説していきます。
初めに、マウスピースとは、上の歯に装着するプラスチックを指します。
装着するとこんな感じです。
マウスピースが特に必要な方はどんな方かというと
①歯が欠けている人、しみる人
②歯ぎしりの影響で、歯を噛むと痛い人
③肩こりがないのに、側頭部の頭痛がつらい人
④口が開けづらい方
⑤歯科医師に歯並びが悪いと指摘されている方
⑥被せ物や詰め物で治療を終えた人
ざっとこの辺りになるかと思います。
虫歯の治療が終わったけど、歯並びは悪くて、歯ぎしりしてる人は絶対に使った方がいいと思います。
控えめに言っても、
歯列不正×清掃不良×強い歯ぎしり=口腔内崩壊です。行く末は、入れ歯かインプラントです。
口腔内が崩壊し始めてる例
https://www.instagram.com/p/BevP83Rl-pv/?igshid=focjhxw5amry
近年は、虫歯や歯周病だけでなく、慢性的な歯ぎしり食いしばりのような、過大な噛む力も加わって、歯を失う方が増えてきています。
マウスピースが必要な理由は、「噛む力から歯や顎関節を守るため」です。
現在自覚がない方でも、ストレスを感じやすい生活環境であれば、予防的に使用することをお勧めします。
脱線しましたが、さて、本題に戻ります。
次に、歯医者で用いられるマウスピースについてですが、
A.ソフトタイプ(保険適応)や、
B.ハードタイプ(保険適応外)
などがあります。
病院により取り扱いに差がありますが、当院では後者(B)をバイトプレートと呼びます。
Amazonなどで出回っているものは、歯科医による装着状態の噛み合わせがチェックができず、歯や顎関節の痛みの原因になりうるため、あまりお勧めできません。。。
*最近、厚労省から、マウスピースを作るのは歯科医療行為に該当する、というお達しもあったようです。そのうちAmazonなどでの取り扱いは法律で禁止されるかも?
https://www.dentist-oda.com/mouthpiece-denal/
先ほどのA.ソフトタイプとB.ハードタイプ(バイトプレート)ですが、ハードタイプが最強です。先ほどの、マウスピースが必要な人①~⑥のすべてに対応できます。
逆にソフトタイプは、顎関節に問題のない①の方くらいにしか合いません。
では、ソフトタイプと、ハードタイプの違いは何でしょうか?
ずばり、厚さと硬さと、調整に必要な技術です。
ソフトタイプは下の写真のような、均一な厚さのシート(2mm前後)を溶かして製作します。
できあがったマウスピースは、全体的に均一な厚みとなります。
そのため装着すると、奥歯はよく当たるのに、前歯のほうはあまり当たらない状況が生まれやすいです。下の図で、奥歯が先に当たりそうな感じは伝わりますでしょうか?
その結果、マウスピース越しに、奥の方ばかりが強く圧迫されるようになります。
ある程度は噛み合わせの調整が可能ですが、完璧な調整を追求すると、途中でマウスピースに穴が開くことが多いため、調整は妥協的になりがちです。
ソフトは、歯ぎしりによる歯のすり減りを防ぐ意味では有効ですが、弾力のある素材なので、逆に噛み癖がついて睡眠中の食いしばりが増える方もいます。これにより、側頭筋が疲労し、頭痛が起こりやすくなります。
一方、ハードタイプですが、これも上の歯に装着する点でソフトと同じです。しかし、厚みを調整でき、前歯も含めて全体的に下の歯と当てられる点は異なります。
また、硬めのプラスチックで作製し装着するため、カチッと噛むと上下の顎関節の間にスペースが生じます。このスペースによって、顎関節は緊張から解放され、リラックスした状態になります。
これは、どういうことでしょうか?少し分かりづらいので、順を追って説明します。
先に、下の図は、マウスピースなしでカチっと噛んだときの、上あごと下あご、関節を横から見たイメージです。
赤の矢印付近が顎関節で、上下の関節の間には軟骨があります(黒丸に斜線)。
歯ぎしり食いしばりが強いと、下あごの関節は軟骨をすりつぶす方向へ近づきます。このとき、顎の筋肉(咬筋、側頭筋)もすごくよく使います。
軟骨がすりつぶされ過ぎると、上あごと下あごの骨(上の画像の赤矢印付近)どうしが直接ぶつかるようになります。また、筋肉も酷使するため、寝てるときは顎の筋トレをしているような状態が続きます。つまり、筋肉の肥大により、エラが張ってきたり、顔が大きくなったような感じもしてきます。
これらの結果、口の開け閉めに必要な筋肉が硬くなって、口が開けづらくなったり頭痛がしてきたり、ということが起こります。
このような状態を避けるのに有効なのが、ハードタイプのマウスピースです。
ポイントは上と下の歯の間にハードタイプが入れてカチッと噛むことで、ハードの厚み分だけ、関節のところにスペースができていることです。
下の画像は、ハードタイプありで噛んだ時の顎の関節の状態です。
ハードが少し硬い素材であることも、このスペースを作るうえで重要なポイントです。
また、ハードタイプは、歯よりは柔らかいので、歯ぎしりによる歯への負荷を軽減できます。また、ソフトのマウスピースと違って歯全体を当てる調整ができるため、噛む力を全体に分散でき、噛んだ時の痛みや違和感を緩和できます。
実物はこんな感じです。
赤と青の点は、下の歯が当たった位置ですが、全体的に満遍なく当たっている感じは伝わりますでしょうか?この当て方はソフトタイプだとほぼできません。こういったことが非常に重要であり、技術力が要求されます。
顎の関節や噛み合わせの話はとても奥深く、一度に説明すると複雑な内容が多いので、今日は一旦この辺りで締めます。
まとめです。
次の①~⑥でお困りの方は、ハードタイプのマウスピースで解決できます。
①歯が欠けている人、しみる人
②歯ぎしりの影響で、歯を噛むと痛い人
③肩こりがないのに、側頭部の頭痛がつらい人
④口が開けづらい方
⑤歯科医師に歯並びが悪いと指摘されている方
⑥被せ物や詰め物で治療を終えた人
ソフトタイプのマウスピースも、ないよりはあったほうがいいですが、改善に向かわないこともあるのでご注意ください。
噛み合わせや顎関節について、少し補足したい話があるので、また次回お話させていただけると幸いです。
今回のは難しい内容でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました(*^^*)