更新が滞っておりましたが、今日は「仮歯ってなんであんなに取れるの?」という世の中の不満にお答えしていこうと思います。
今日のお話の概要
仮歯(かりば)とは
そもそも仮歯って何でしょうか?
その名の通り、仮の歯なのですが、治療したことがなければイメージ湧かないですよね?
簡単に言うと「プラスチックでできた、最終的な被せ物ができるまでの期間に使う歯」です。
実物をお見せすると、こんな感じです(自作で、まだまだ修行が足りない出来栄えではありますが)
1本の場合
複数の場合
とまあ、こんなイメージです。
作り方もその場で作ったり、歯型を採らせていただいて作っておいたり、色々方法はありますが、私の場合事前に作っておいて、治療時間の短縮化を図ります。
なぜ仮歯を入れるのか
はい、では肝心な、「なぜ」の部分ですね。なぜ必要か。
今までアルバイトも含めて、東京・埼玉・群馬など(都心は青山や虎ノ門、日本橋から、埼玉県越谷市や群馬の高崎まで)10軒以上の歯科医院で働きましたが、平均すると仮歯なんて作らない先生の方が多かったです。
えっ、じゃあ要らないんじゃないの?と聞かれそうですが、仮歯はあった方がいいです。あった方がいいのはなぜか、そして、大半の歯科医師がなぜ仮歯を作らないか、そのあたりをお話していきます。
仮歯があったほうがいい理由
まず、前提として、仮歯があった方がいい「状況」ですが、
①歯の根の治療中
・虫歯が大きくて神経を取ることになった場合
・あるいは神経は既にないものの、歯の内部に膿があり、内部を綺麗にし直す場合
例)歯の内部に問題があって、金属の被せ物と土台を外し、根の内部の治療を始める前
これを、次の写真のように白い蓋で終わらせることもできますが、このままだと噛めないため
このようにします。
経験が浅いころのケースなので、仮歯がへたくそです(^^;)うーん形がいまいち。
②虫歯があったなどの歯で、神経は残っていて、この後被せ物になる場合
たとえば、1本歯を抜くことになり、ブリッジで治しますっていう状況などがありますね。
具体的には、こういった状態です。抜けたところの前後の歯には神経があるので、このまま(削りっぱなしの状態)だとしみてしまいます、、なので
このようにブリッジの形をした仮歯を入れます。
仮歯があったほうがいいのは、この2パターンです。
それに対し、仮歯が必要な理由は、
1.噛める状態を維持するため
2.噛みあう相手の歯が、伸びてこないようにするため
3.隣の歯が寄ってこないようにするため
4.前歯など、無いと見た目的に困るため
5.全体的に噛み合わせがおかしくなってしまっている方で、噛む位置を再発掘するため
6.最終的な被せ物を入れる前に、形や大きさ、歯茎の炎症を起こさない形になっているか確認するため
等といった理由となります。実はたくさんの大事な役割を果たすんですね。
それなのに、下手したら、仮歯の治療がなされなかった方もいるのはなぜでしょうか。
なぜ大半の歯医者が仮歯を作らないか
前歯に関しては、見た目の問題もあるので、さすがに作る先生は多いと思いますが、奥歯の根の治療などであれば、作らない先生も多いように感じます。
その、よくある理由についてご説明します。
まずは、前提として、歯科は保険診療の割合が大きいクリニックの方が多いのですが、
保険診療で仮歯を作ると、時間が取られる割に収益がありません。恐らく大半の理由はここです。だって歯を削ったその日に歯型を採った方が、病院の収益の効率がいいですからね(^^;)
そして、採算性の問題から、仮歯を作らないクリニックが多いので、日常的に仮歯を作る先生と、全く作らない先生では、仮歯の扱いの技術に開きがあるように感じます。(自分も下手なのに、偉そうにすいません)
これは言い換えると、下手に慣れない仮歯を作って、それが後で取れてしまい、患者さんが急患で戻ってきたら、その対応に追われて予定のアポイントに影響が出るリスクがあります。
なので、そもそも作る義務がないものですし、余計な問題を抱える可能性があるくらいなら、面倒な仮歯なんて作らない、そういう結論に至るのではないかと思います。
ちなみに仮歯も2段階あって、専門的な話をすると、ただ単に最低限の機能を果たすものをTEK(テック)、最終的な被せ物を意識した形のものをプロビジョナルレストレーション(以下プロビ)と呼びます。
TEKは作るのが簡単ですが、プロビは誰もが納得するものを作るのに、かなりの技術が要求されます。歯科医師を9年やってますが、毎回プロビを目指して仮歯を作っていて、一度も納得いくプロビができたことはありません。一度もです。
ただ、最低限、自分が作った仮歯がどれくらいの精度だったかを確認していて、いまはこれくらいかな、という感じです。一応そのイメージもお見せします。
仮歯の治療をした2例
まずは1人目の方。ブリッジに虫歯があって、治療をすることになりました。
治療前
仮歯
次に2人目の方。右上の2番目の歯が大きく欠け、最初に仮歯になりました。
治療前(転倒して歯が欠けて、近所の歯科医院で応急処置してきた後)
仮歯を入れた後
仮歯と最終的なものの比較(左が仮歯、右がセラミック)
形は、プロビというにはまだまだです
仮歯の精度のチェック(模型上で)
黄色の矢印を見て、まあまあぴったりにはなっているようです。
とりあえずこんな感じです。
仮歯が取れやすい理由と気を付けること
よくある不満の1つが、仮歯が取れることですね。
理由は、大きく分けて5つあります。
1.治療の時間が仮歯の調整で大半を占め、噛み合わせの調整が不十分だった
2.そもそも仮歯の適合(歯の本体へのフィット)が緩かった
3.仮歯の土台になる歯の量(仮歯の支えになる部分)が少なすぎる
4.硬いものを噛んでしまった
5.ストレスや睡眠不足などのため、病院で調整した以上の歯ぎしりを就寝時にしていた
1と2は歯科医の技術の問題ですね、、自戒も含め、気を付けます(^^;)
3,4,5は厄介ですね、、場合によっては、歯の土台ができるまでは、多少注意や我慢が必要かもしれません、、
取れることは嫌なことですが、取れることにより、「その高さや形で最終的な被せ物を作ったらエラーが出ますよ」、と教えてくれる役割も果たしています。なので、実は急いで完成させるより後々のトラブルを回避したり、予測できるのです。
あ、ちなみに仮歯が取れたときは、まだ再利用できることも多いので、念のため保管していただくとありがたいです。粉々じゃない限り捨てないでくださいね!
仮歯がよく欠ける、割れるときは
これも先ほどの1~6と大体おなじですね。
ただ、元々歯茎から出ている歯の量が少ない方もいるので、そういった場合は、外科的に歯茎を下げて、歯茎から出ている歯の長さを確保しないと難しいこともあります。
(専門用語でクラウンレングスニングとかいいます)
たとえばこういう方。右の2本は歯茎と同じくらいの高さにあるのですが、
この位置でカチッと噛んでもらい、写真を撮ると(右の方に注目)
はい、下の歯が入るスペースがほとんどなければ、仮歯を支える最低限の歯もありません。
こういう方の仮歯は非常に取れやすいですし、歯茎に埋まっている歯を外科的に出してあげないと、維持できないことが多いです。
ですが、このタイプが仮歯を入れないのが一番厄介で、放置すればするほど上の歯がどんどん下に伸びてくるので、いずれ上下の歯の間の隙間はなくなります。
そうなると、隙間を確保するために上の歯も削らなくなったりして、治療も一気に大変になります。
参考までに、放置と言えば、この方も右下の歯を抜歯して数年放置したそうですが、左の写真(お口の中だと右側)を見ると、上の歯が歯茎近くまで伸びてきていますよね。ここまでの状態になると、ちゃんと治そうとした場合、数年はかかります。
(*反対側は固定式のブリッジで連結されていたため、伸びておりません)
このように、抜歯して、問題を先延ばした場合も、将来すごく困る可能性が高いので、早めにどうするか考えておくことをお勧めします。。
まとめ
以上より、まとめです。
仮歯は治療中に、噛み合わせを崩さないために重要です。
また、最終的な被せ物をうまくセットするための、環境整備(歯茎の炎症管理、見た目、高さなど)の役割を果たすものです。
仮歯が取れたり割れたりというのは、一見嫌なことですが、実はそれによって、生体から「その噛み合わせだとダメですよ」というメッセージを得ています。つまり、メッセージを元に最終的なものを作れば、トラブル回避の精度が上がります。
結論として、必要に応じて仮歯をつくってくれる歯医者をお勧めします。
ちなみに、歯科医師側的にも手間ですし、患者さんの来院回数も少し増えてしまう仮歯の治療ですが、私個人は仮歯をしっかり作る先生は、本質的にいいドクターだという信念があるので、こういったことをやらせていただいています。
「精度なんか大体でいい、とりあえず早く作って治療を終わらせてくれ」、と言われると、考えが伝わっておらず、少し悲しい気持ちになりますが、それも一つのニーズですので、無理強いはしません。
病院からすればあまり採算性の高くない治療ですが、今後も患者さんのためになると思えばご説明しますし、同意いただければ尽力させていただきたいと思います。
長くなりましたが、以上です。ありがとうございました(*^^*)