これでスッキリ 〜歯医者の謎にお答えします〜

ICON治療を中心に、気まぐれに歯のお話します

第9話 白くなるわけないよ。だってそれ、ホワイトニングじゃないもん。

気が付けば、2週間近くも更新が途絶えてしまいました、、

歯科医師のイブスキです。

 

この2週間は、世間ではいろんなことがありましたね。ざっと挙げても

 

・天皇陛下が御即位

・台風の後も大雨が続いて千葉県に被害

・ラグビー日本 ベスト8

・日本シリーズ ソフトバンク優勝

・チュートリアル徳井さん 活動自粛

 

などが記憶に新しいかと思います。個人的には、千葉県が一番気がかりです、、被災された方々が、早く以前のような生活に戻れるよう、お祈りしております。

 

私の周りは特別変わったことはありませんが、強いて言えば、最近近所で金木犀の香りがしてきて、ちょっと気分がいいくらいでしょうか。台風19号が去って急に涼しくなりましたよね。

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気分がいいと言えば、歯のクリーニングとホワイトニングですね (笑)

若干強引な流れですが、今日のタイトルは「白くなるわけないよ。だってそれ、ホワイトニングじゃないもん」にさせていただきました。

 

「歯のホワイトニングについて」だと、ありきたりでネット上に転がっているので、もう一歩踏み込んで、「歯のホワイトニングの隠れた効能と、ホワイトニング後のホームケアなど」についてお話したいと思います(*^^*)

 

その前に、まずは肝心な「ホワイトニングとは何か」からお話していきます。

ホワイトニングのあれこれ

ホワイトニングとは何か(定義)

ホワイトニングとは、歯を白くする方法です。ただし、厳密な定義は「歯を内部から白くすること」であり、「歯の表面の汚れを取ること」ではありません。

よくある誤解の一つが、歯磨き粉でホワイトニングをした、という話です。

市販の歯磨き粉には、歯の表面の汚れを落とす効能はあっても、歯の内部を白くする効果はありません。

方法としては、①自宅で行うホームホワイトニング②歯科医院で行うオフィスホワイトニングがあります。これらは、神経のある歯に行う方法です。厳密にはウォーキングブリーチと言って、神経のない歯へのホワイトニングもあるんですが、そこまで話すとだいぶロングになるので(笑)、今回は割愛させていただきます。

では、ホワイトニング(先述の①と②)はどのように行うのでしょうか。

ホワイトニングのメカニズム

ホワイトニングでは過酸化尿素もしくは過酸化水素を使用します。

過酸化尿素は分解して、過酸化水素に変わります。この過酸化水素が、ホワイトニングをするうえで重要な成分となります。各メーカーから濃度別に用意されています。

ホワイトニングの原理を示したのが、以下の図です。

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楽しく語ろう クリニカル&マテリアル 「ホワイトニング材の現状とこれから」より引用

要は、歯の表面(エナメル質)にジェルを留置し、過酸化水素が分解するときに生じる活性酸素(フリーラジカル)が、①エナメル質の規則正しい構造を不規則に変え、同時に②象牙質内部の有機物や着色を分解・透明化することによって、歯は白くなります。

①によって、エナメル質はすりガラスのような構造になるため、内部(象牙質)の色が見えづらくなります。

つまり、歯の内部が透明に近づき、歯の表面も内部の色が透けないように構造変化するため、歯が白く見えるようになる、という原理です。ここは、簡単に説明するのが難しいんですが、伝わりましたでしょうか?

 

ただ、1つお伝えしたいのですが、歯の表面が溶けたり神経が死んでしまったり、ということはありません

ホワイトニング歯磨き粉について

ここで気になるのが、じゃあ市販のホワイトニング系の歯磨き粉はどうなってるの?問題です。

繰り返しになりますが、ホワイトニング系歯磨き粉は、歯の表面の汚れを取る機能しかなく、歯の本体を白くすることはできません。なので、そもそもホワイトニングではありません。

 

最近はいろんなメーカーが出しすぎて、私もすべては把握していませんが、傾向として言えるのは、大体が研磨剤で歯の表面を着色ごと削って白い面を出すか、もしくは酸性で歯の表面を溶かして白い面を出すかのどちらかだということです。

ほとんどが歯にダメージを与えてしまうホワイトニング系の歯磨き粉ですが、私の知る範囲で1つ、比較的安全なものがあります。それは、GCのルシェロホワイトです。

 

実は、東京医科歯科大学の大学院生時代にルシェロホワイトの評価研究をさせていただいており成分についてはよく知っているのですが、あれは一般的な研磨剤をかなり微粒子化しているため歯へのダメージが低減しております。

 

またアルカリ性で歯を溶かさないため、歯磨き粉で白くしたい(歯にダメージなく着色を落としたい)のであれば、オススメできます(*^^*)

 

ルシェロホワイトはそこそこ大丈夫な部類に入りますが、基本的にはホワイトニングを謳った歯磨き粉は少なからず歯ヘダメージを与えるものと疑った方が無難です

歯の表面に傷がつけば、かえって着色しやすくなりますから。

ホワイトニングの実際

では、自宅で行うホームホワイトニングについて、実際の経過についてお見せします。

濃度は10%を使用しており、写真を撮影したときの設定はすべて統一しています。

 

ホワイトニング開始前

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1週間後

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1か月後

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開始時と1か月後の比較

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低濃度の10%のジェルタイプでも、大体1日7時間前後の使用で、1か月でこれくらいは変化してきます(^^)

ホワイトニングが適応ではない方

無カタラーゼ症候群という、過酸化水素を分解する酵素が先天的にない方
テトラサイクリン歯の方

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エナメル質形成不全歯の方(軽度の方以外)

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 これらの方は、歯を白くしたければ、削って被せる(もしくは貼り付ける)のが妥当かと思います。

ホワイトニングの副作用、起こること

ただ、ホワイトニングは口元が綺麗になるというメリットとは引き換えに、いくつかの副作用もあります。

代表的な副作用として、

・歯がしみる(特に時間が経ってから)

・一時的に、歯の表面にムラのある白斑ができやすい

・漏れた過酸化水素が歯茎にしみる

 

といったことが挙げられます。またデメリットとして、しばらく着色の強い食べ物・飲み物を控えないといけないことも挙げられます。結構着色の強い食べ物って多いです(^^;)

 

ちなみに、ホワイトニングは永久的な効果を保証してくれないので、時間が経つとまた色が戻ってきます。なので、気になってきたタイミングでホワイトニングし直さないと、いい色合いを維持することはできません。

*ただし、最初に白くしたところまでは、比較的短期間で戻ります。

あまり知られていない効能

あまり知られていない効能として、歯周病細菌の殺菌作用があります。なので、進んだ歯周病の方であれば、対応として不十分ですが、軽度の歯周病の方であれば多少効果があるかもしれません。

ホワイトニング後のおススメのホームケア

 歯の表面(エナメル質)というのは普通に生活していたら、ミクロレベルでガタガタな形をしています。そこに、唾液由来のタンパク質(ペリクル)が一層付着し、そこを足掛かりに、歯垢が付着してきます。

歯垢やタンパクなどの有機物は、ホワイトニングするときに薬剤の効果を低下させる邪魔なものです。なので、まずはクリーニングで除去していきます。ちなみに、タンパク質は歯ブラシでは落とせず、歯科で行うPMTCと呼ばれるクリーニングでのみ可能と言われております。(厳密には他にも方法はありますが、一般の方は、歯を削ったり溶かさない限り無理だと思います)

 

これらのタンパクや歯垢を除去すると、綺麗なエナメル質が出てきますが、ミクロレベルで見るとガタガタな形をしています。

つまり、ホワイトニングをしたとしても、この形を滑らかにしなければ、このガタガタな部分に再び着色の原因が入り込みます

 

えー!?せっかくホワイトニングしても、歯の表面がガタガタなら、意味ないじゃーん

 

と思ったそこのあなた(笑)

企業が頑張って、今はいいアイテムがあります。

そう、

 

オーラルケア アパガードリナメル 120g

オーラルケア アパガードリナメル 120g

 

 歯科界が産んだ最高傑作の1つ、アパガードリナメルです!

これは歯科関係者でも愛用者が多いと思われます。ちょっと高いですけど、、

ホワイトニングした後に、歯の表面に5~10分くらいリナメルを付けたら、歯の表面はだいぶツルツルになります。歯科に出ている歯磨き粉の中で、一番粒子が細かく(ナノサイズ)、それがエナメル質表面のガタガタな部分を埋めてくれるからなんですね。あ、方法ですが、ホワイトニングに使用したトレーを洗浄して、そこへリナメルを流し込めばOKです(*^^*)

 

ちなみに、

1ミクロ(㎛)=1000分の1ミリ(㎜)ですが、

1ナノ(㎚)=1000分の1ミクロ(㎛)です。

髪の毛の平均太さが80ミクロなので、1ナノは髪の毛の80000分の1といえば、リナメルがどれだけ細かい粒子か伝わるでしょうか?

 

それらを示したSEM(セム)画像が以下です。一番右の画像を上から見てほしいのですが、

一番上:①何もしていないエナメル質の表面

真ん中:②有機物(タンパク質や着色、歯垢)を除去した後のエナメル質

一番下:③リナメルで表面を埋めた後

という風に見ます。

最後にリナメルを使うと、歯の表面がだいぶ滑らかになっているのが確認できます。

*SEMは研究機関に置いてある、数千~数万倍で観察できる装置です。

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エナメル質・象牙質・補綴物のプロフェッショナルケア(加藤正治先生著 クインテッセンス出版)より引用

リナメルで終わっても全然構わないと思います。これだけでも、だいぶ着色しづらいエナメル質に変身していますからね。ちなみに、リナメルは、虫歯の菌への付着能が90%と高く、除菌効果があることは歯科医師でもあまり知っている人はいないと思われます。

ただ、折角だから、歯を丈夫にしておきたくない?というモチベーションのある方には、これも併用することがオススメ。

 なんとガムなんです。ですが、このガムは別格です。

虫歯予防ガムのPos-Ca(ポスカ)といって、フッ素無配合のPOs-Caと、フッ素配合のPOs-Ca+Fの2種類あります。ホワイトニングをしていなければ、POs-Ca+Fがオススメなのですが、ホワイトニング中に限っていえば、フッ素無配合のPOs-caのほうがいいです。

 

というのは、リナメルはエナメル質よりもフッ素との反応性が高いため、POs-Ca+Fだと、フッ素に引っ張られて歯の表面に定着しようとするリナメルが引きはがされてしまうんですよね(^^;)

 

POs-Caの効能は、日常生活で流出した歯のミネラルを、歯の内部に送り届けることです。これを再石灰化といいます。POs-Caを併用することで、リナメルの歯の表面(エナメル質)への定着効率も上がります。これは噛むしかありませんね(笑)

 

*ちなみに、MIペーストという、PO-s-Caと並ぶ再石灰化系の双璧がありますが、MIペーストだと、歯の表面への付着能が高く、リナメルの効果を相殺する可能性があるので、リナメルとの併用という観点ではPOs-Caがベストだと思います(*^^*)

この辺の話も始めるともう一話分くらいに膨らむので、また今度にします(笑)

まとめ

 長くなりましたが、まとめです。

ホワイトニングとは、歯科で使用する薬剤のみの効果を指し、歯を内部から白くする方法です。

ホワイトニングで用いる過酸化水素には、歯周病菌殺菌作用があります。

また、ホワイトニング後は歯の表面の有機物が分解され、表面のガタガタな部分が露出します。(ただし、歯が溶けるわけではない)

そこをツルツルにしてくれるのが、アパガードリナメル(ザンギ社)、更に、効率よくミネラルを補ってくれるのがPOs-Caガム(グリコ)です。フッ素配合のものは、リナメルの効果を相殺するため使ってはいけません。

 

せっかくホワイトニングをするのなら、歯の表面と中も効率よく補修して、着色しづらい丈夫な歯にしちゃいましょう!

 

やや難しい話もありましたが、以上です(*^^*)